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第1回セミナー「貴金属のはなし。」開催レポート]

佐藤金銀店 常務取締役 佐藤仁男氏10月24日 第一回セミナー

【貴金属のはなし】
講師:佐藤仁男 氏 (株式会社佐藤金銀店常務取締役)

貴金属の鋳造の現場を工場見学した後、
金属の歴史や特性、扱い方などについて
お話しいただきました。

株式会社佐藤金銀店
東京都足立区千住宮元町16-13
(電話)03-3882-3755~8番
(fax) 03-3882-8840

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一軒家?いえいえ、こちらが工場です。
【工場見学編】

東京・北千住駅から徒歩15分。昔ながらの懐かしい銭湯(現役)を眺めながら右に曲がると、ここだここだ、佐藤金銀店の看板が見えてきました。

佐藤金銀店

「はるばる、よくお越し下さいました」
佐藤金銀店の常務取締役・佐藤仁男さんは細身で長身、笑顔が穏やかで物腰丁寧。
お礼を言うのはこここちらです、と恐縮至極で始まったmusubuセミナー第一回『貴金属のはなし。佐藤金銀店工場見学付き』。
事務所お隣の工場は、外から見るとふつうのちょっと広い一軒家だけれど、中に入ると機械そしてまた機械の男の世界。
佐藤工場長ご案内役は佐藤工場長。

「では、工程順に行きます。最初は溶解です」
炉で銀とパラジウムを溶解して鋳型に流し込み、数秒後にパカンと開くと中から直方体のハンコのような銀合金が出てきた。ほおお~と沸き上がる歓声、沸き起こる拍手。

作業の様子佐藤金銀店が扱う合金はもちろん銀だけではなくて、定番の合金としてプラチナだけでも12種、ホワイトゴールド20種、シルバー13種、イエローゴールド&カラーゴールド33種、色金(いろがね)&その他14種とたいへんな多様ぶりだ。
それに、たとえ通常扱っていなくても「こんな色目のものが欲しいのです」とお願いすると、常務をはじめ研究好きな面々が、とことん取り組んでくれて「こんな感じでどうでしょう」とご提案してくださる。
これが佐藤金銀店が業界で信頼厚く、学生から海外のスーパーブランドまで顧客に抱える所以。ありがたや~(拝手)。

圧延と伸線「次は圧延(あつえん)と伸線(しんせん)です」

合金はオーダーの厚みや直径に合わせて、板や線に延ばす。ローラーに挟まれて出てきた薄い金属板は、なんだか妖怪一反木綿のよう。
「線は髪の毛以下、直径0.08ミリの細さにまで伸ばせます」 板や線はこれまたオーダーに合わせて切断していく。

ん?機械の下にたくさん並んでいるボウルはなんだろう。中をのぞくとそれぞれに、数センチ単位の短い金属線や金属棒が入っていて、みんな形状が違う。
「佐藤さんってほんとに小さい注文でも受けてくれるんだよねー。申し訳ない」と目頭を押さえる参加者多数。
こんなに細かいオーダーにそれぞれ応えているなんて……と後から佐藤常務に伝えると、「だってもしうちが断ったら、学生さんとかの細かい注文は誰がやります? きっとどこも受けないでしょ。そう思ったらやらないわけにはいかないじゃないですか」とニッコリ。男気溢れる言葉にシビレました。

佐藤金銀店では鋳造をオーダーすると、焼鈍(やきなまし)はどうしますか?と聞いてくれる(参加者談)。固いままでオッケーの場合は焼鈍はナシ、受け取った後に自分で加工をする場合は、柔らかくなっていたほうが都合がいいので焼鈍をプラス。焼きナマシ代はサービスです。
ガスバーナーをボーボー燃やして焼鈍をする様子は、見ているだけでも汗が出そう。「夏は大変ですねえ」というと、「そうなんですよ~」と工場長はニコニコ。炉前は50℃以上になります。
工場長以外の工員さんも皆さん、どんなことをお尋ねしても(ちょっとくだらないかな~という質問も)ぜんぜん馬鹿にせずに即答してくださる。皆さんの様子からからひしひしと、お仕事に自信を持っている様子が伝わってきて、大感動の工場ツアーでした。

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金属は不思議、合金は個性的。
【貴金属のはなし。セミナー編】

■佐藤金銀店について

創業は昭和元年、1925年です。

親父が初代で、まさに両親はおしんの世界。新潟から親の借金を抱えて江戸に丁稚奉公に出てきたんです。叔父が番頭をやっていた地金屋に入って、3時半に起床、雑巾がけから毎朝始まる。
数社の大手地金商を除けば、当時の地金屋の仕事は、分析加工を業としていました。弊社も現在のように機械化の緒につき、合金を作製するようになったのは、昭和40年前後でした。
当時の地金屋は、今でいう廃品回収の仕切り人です。買い出し人が地方の質屋さんなど回って買い集めてきた貴金属の故品を買い取り、分析して純粋な金とか銀を取り出すんです。
その後はどうするかというと、当時この千住界隈は飾り職の職人さんが多く住んでいたんですね。飾り職人さんが自分で合金をチョコ皿で溶かして、指輪数個分とか、ネックレス一本分とかの合金を自分で作っていたので、私たちは職人さんに取り出した地金をそのまま卸していました。

佐藤金銀店を株式会社にしたのは昭和40年。その時は私と兄貴の2人だけで、兄貴がフロント、私が現場をやりました。私は現場を14、5年やっていたのですが、最初はどうやって合金を作るかの指針がありませんからね。毎晩2時3時まで1人で工場にこもってました。合金ってうまくいかないと、鋳造した時に割れてしまうんです。伸ばそうとするとささくれだって、指に刺さって血がでる。心血を注ぎました。(ダジャレ)

■合金について
-熔解と鋳造-

合金の大きな問題の一つは、一番最初の溶解と鋳造です。どのように解かして鋳型にあけるかが難しい。

金属原子の原子核は腕を持っていて、仲のいい金属とは手を結ぶ。仲が悪い金属とは結ばない。仲の悪い代表は、銀とニッケル、銀とタングステンです。両方を合わせて加熱するだけでは絶対に合金にはならない。

ではどうするか。粉末の状態で混ぜて、高温高圧で焼き固めるという、焼結という瀬戸物みたいな作り方をします。

合金は、溶かす順序も大切なんですね。イエローゴールドは通常、銀と銅を先にまぜて「割金(わりがね)」というのを作ってから金と混ぜると作業性がいい。
ところが、金と銀を先に溶かして銅を混ぜると、合金になるにはなるが、.少し固くなったり、ヘンにばらついたりします。

理由は、金と銀は非常に仲がいい金属なんですね。後からそこに銅を混ぜようとしても、均質に混ざってくれない。

-合金っておもしろい-
ついこの間も経験したんですが、ホワイトゴールドのオーダーを受けまして、金と銀と銅とパラジウムで作りました。ところが、お客さんから「いつも同じパーセンテージでお願いしているんだけど、たまに鋳造すると割れてしまうことがある」と言われた。
「鋳造の時、なにか違うことはしていませんか」と聞くと、そんなことはない温度管理しておなじようにやっているという。

原因を探っていったら、材料をセッティングした人間が違っていたんですね。失敗した例は、金とパラジウム、銀、銅を重量比で合わせたものをドンっといっぺんに溶かして鋳造していた。
私がやるときは、銅と銀を先に合金したものに金とパラジウムを加える。そうすると全然問題がない。仲のいい金属と仲の悪い金属の問題ですね。永年やっていても合金ってこんなことがある。おもしろいですね。

-純金ハード、純プラチナ-
いま純金のハード、純P(プラチナのハード)という材料が出ていますね。あれは正確に言うと、純金ではないんです。99.85%アップ。造幣局の検定所は、数値の指針は出していませんが、ピュアであるという検定極印をもらうためには、18金もプラスマイナス0.15%以内は合格になると、経験的に知られています。
だからあと0.15%を何か他の金属を入れて固くするんです。何を入れるか。各社色々で正解はないです。

-時効硬化とバネ性-
合金の種類によっては、熱処理によって硬さとかバネ性が出せますね。私がお客さんによく、お薦めしているやり方で、時効硬化を利用すること。
「時効硬化」の反対を「経時軟化」といいます。経時軟化は単一金属でよく起きます。たとえば純銀で作った厚みの薄い椀物などは、数年経つと、いや1年くらい経つとそうとう柔らかく、指で強く押すと簡単に凹むくらいになります。

それを防ぐためにほんの0.5%でも銅をいれて合金にしてあげると防げます。純金の場合は、沸騰したお湯の中に入れてもいいんですね。時間をかけて煮るとかなり柔らかくなる。
じゃあ時効硬化とは何か。これは合金でしか起きないんです。貴金属合金を加工する過程で急冷しますよね。(焼ナマシ)。あれは硬化した合金を軟らかくする為ですが、(鉄の場合と正反対に)自然放冷すると硬くなります。その理由は熱した貴金属合金の温度がどんどん下がって、ある温度帯になると、金属間化合物が製成されはじめます。この化合物が合金を固くします。
銀銅合金の場合、化合物が生成されるのが200度から250度くらい。銀合金を固くしたいと思ったら、200~250度くらいで1時間くらい焼成してあげるとどんどん固くなります。
金合金の場合は400度くらいで化合物が生成されますから、固くしてやりたかったら400度で1時間くらい焼成するとかなり固いものができあがる。

ドッグネックみたいなジュエリーは、焼鈍した金属でないとソフトなフォーミングが出来ません。焼鈍材でフォーミングした後、時効処理をすれば、高温にさらさない限り、その形状を長期間保持できます。合金の種類・形状によっては、びっくりするほど固くなりますよ。

-スターリングシルバー-
余談ですが、シルバー925のことをスターリングシルバーともいいますよね。これはもともとは、ドイツにいたエステルリングという鋳造家が、15世紀くらいかな、イギリスに渡って925という合金を教えたそうです。この合金を焼成すると金属は固くなることから(時効硬化)、コインシルバーに使用されたそうです。
エステルリングの英語読みがスターリングになるので、925銀はスターリングシルバーとも呼ばれるようになったそうです。

(質問)合金で特許を取るという時は、金属の割合で取れるんですか?
いえ、おそらく合金で%では特許がとれないはずです。製法ではとれると思いますが。

昔、あるメーカーさんがある割合のピンクシルバーを開発して、特許申請までは出しましたが、審査請求まではやらなかったはずです。おそらく落ちるから止めたんでしょうが、そのメーカーさんはさすがですね。

あちこちからピンクシルバーを買いたいという引き合いがあったけれども、いくつかのブランドにしか売らなかった。大成功だったそうです。そのブランドに行かなくちゃピンクシルバーのジュエリーは買えないということで。

(質問)ピンクゴールドはパラジウムの代わりにプラチナを入れてもいいんですか?
ピンクゴールドにはパラジウムが入ったタイプと、プラチナが入ったタイプがありますよね。パラジウムタイプは加工性がある程度ありますが、プラチナタイプはほとんどない。お客さんが自分でさらに鋳造すると、みんな割れちゃう。鋳造したものを磨き上げて使うことはできますが、伸ばしたりひっぱったりが出来ない。色はパラジウム合金より鮮やかで明るいピンクができるんですがね。

それから、銀とパラジウムはものすごく親和性が良くて、どんな割合で混ぜても均質に混ざる。理由の一つは、比重が近い。パラジウムは12.1、銀は10.5。これがプラチナと銀になると、プラチナは21.4ですから銀のほぼ倍ですね。比重差があるので湯が対流していないと二つの金属は上下に分かれてしまい、熔融点、凝固点が大きく離れている為、固まるときにどうしても分かれてしまう。。いわゆる偏析という現象です。

(質問)色金(いろがね)ってなんですか?
伝統工芸の世界で使用されてきた、日本のオリジナルな合金です。色金はこのままでは使えなくて、煮色(にいろ)と言って薬品で化学処理をしないと色が出てきません。
色金で代表的なのは赤銅(しゃくどう)です。銅に1~5%という微量の金を入れます。赤銅の色は漆黒から深い青黒色、いわゆる烏金という色です。磨き上げるとエナメルみたいに見え、漆器に見える人もいるくらい。もう一つ代表的な色金に、四分一があります。この合金の煮色(薬品処理後の色)はグレーの濃淡です。銅が多くなるに従ってグレーが濃くなります。

僕ね、語学がぜんぜんだめなんだけど、けっこう外国から引き合いがあるんです。10年位前の夜中の2時くらいに、ロンドンの大貴金属ディーラーの一つから「直接取引をしたい」という電話がきた。でも聞くと月間で何百㎏っていう取引なので、うちではとても無理ですとお断りしました。

外国のアンティークの仕事をしている業者の方から電話がありましたね。イギリスのアンティークの箱の内張に使う、20金か22金の薄い板を作ってほしいというのが2度くらいありました。どうしてイギリスで出来ないんだろうって思いましたけど、結局、各国の宝飾業界と関わる貴金属地金屋側の設備の問題なんでしょうね。そこまでは対応しないということでしょう。

(質問)知り合いの職人さんが戦前に金のかわりに合金を作っていたと言っていましたが
ああ、聞いたことがあります。ある大学の先生が開発したという8~9種類の合金で、真鍮ベースと考えて貰っていいと思うんですけど、銅が主体です。ものすごく固い。色がけっこう金に近いのと、酸化硫化に強いところは優れていたんですが、とんでもない固くて加工がしにくい。商品化しようとしていろいろ動いたようですけど、うまくいかなかった。合金っていうのは多元合金になるほど固くなります。単一金属が一番柔らかい。

おもしろいことに何年かにいっぺん、こういう合金話が復活してくるんです。気を付けてほしいのが詐欺。「こういう金のような金属が何百㎏とあるんですけど」っていう話が時々出てくる。
国際的な詐欺団があって、僕のところにも何回か送られてきました。「これは砂金で本当なら何億にもなるが、さしあたって1千万くらいほしい」って。分析したらほとんど銅です。「これはアフリカのさる国の政府が裏金をつくるための売物である」というのもありました。

-さる古寺の金の延べ板-
先日ですね、奈良の古刹のお坊さんが尋ねてきました。平城遷都1300年を期して、新たに本殿の造営をするとなって、須弥壇(仏像を安置するところ)を開けたら、金の箔がくしゃくしゃに折りたたまれて入っていたんですって。飛鳥の時代ですよ。厚みが0.18~0.17くらいでバラツキがありますが、どうやってこんなに薄くできたのか不思議ですよね。当時はロールもないし、叩くしかない。技法は今でも謎なんですが、一番可能性があるのが「のし棒」で金を伸して薄くしていったんじゃないかと。

どうしてそんな金箔が入っていたかというと、鎮魂のためなんですね。昔、大仏堂を作る時は水銀を使いましたから、ものすごく死者が出た。今回の改築にあたって新しい金箔を須弥壇に納めたいので作ってくれないかと言う。

「薄さにばらつきを作るのは難しいですが、均一のものなら作れますよ」とお答えすると、それでいいとおっしゃるので、こしらえて先日納めました。

もう一つね「砂金もほしい」というんです。金箔と一緒に砂金も入っていたんですって。

-砂金についてー-
砂金はもう何十年も前なんですけど、岩手の山奥で砂金掘りしている韓国系の方がいました。何年かに一度、段ボールで一箱送ってくる。でも、純度はほんの数%でしたね。その人からも便りがなくなったから、恐らくはもう止められたんでしょう。
今、砂金が出るのは、アフリカかカナダくらいしかないようです。そちらと取引があると業者に手を尽くしてもらって、たしかガーナかな、お願いしました。

ちょっと話が逸れますが、砂金選別法では私たち業界では通称「ヨナゲ」と言いますが、比重選別法があります。
お椀の中に砂金の入った砂入れて、水中で振動させ、砂等の軽いものを水と共に椀外に排出します。重い金属(砂金)が下に沈みます。まだこの状態では純度が高くないです。水銀を加えると、金と合金を作ります(アマルガム)。これを火に掛けると、水銀が蒸発して純金が出来ます。
もう一つ、、ご存知の方も多いと思いますが、灰吹法という分離法です。最初に弊社が分析屋だったという話をしましたが、昭和40年前後まで、江戸時代と変わらず、灰吹法も併用していました。
方法は、骨灰(こっぱい)を踏み固めて作った山の真ん中にお皿状に穴を掘って、貴金属屑と鉛を入れて、これをコークスの輻射熱で熱すると、12時間前後経過すると鉛が金属屑の中の貴金属以外の金属を抱えて灰の下に沈み込む。で、上に金、銀又はその合金が残ります。これで99.9%以上の純度のものが残りますよ、見事なもんです。
さらにそれを酸処理をして金銀等貴金属を分離します。いま、灰吹法をやらなくなった一つの理由は、鉛害です。子供の頃のことを思い出すと、工場に入ると口の中が甘くなる。あれ、鉛の煙だったんですね。水銀法といい、灰吹法といい、あの様な方法を続けていたら、大変なことになっていたでしょうね。

(お話:佐藤仁男 氏 <株式会社佐藤金銀店常務取締役>)

 
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