セミナーレポート 梶原昭雄さん『迷える名工のジュエリー打ち明け話』(前編)

電解研磨を学び、御木本の香港工場へ

会社から化学の大学にちょっと行ってくれと言われて、行きました。化学のことも面白くて、いろんなやり方をしてきました。
電解研磨は、細工した後に硫酸に入れますが、金に青い色が出ますね。本当はあの青い色を活かしたほうがいいと思うんですが、量産品の場合はきれいに全部やってくれっていうんで、なかなか技術も難しくて。
青酸カリを扱ますから、扱う免許もなくてはいけないし。会社みたいにロッカーで仕舞えれとばいいんですが、小さいところでは難しいかなと。
大学を卒業すると同時に、香港で現地の人に電解研磨の技術指導したこともあります。
そのときは御木本の香港工場があって、指導に行ったらすごく喜ばれましたね。
作り方を見ていますと、日本と同じ原型でもどっか違うんですね。ちょっとだらしがないような印象だったのを覚えています。

充実していたクラブ活動

これは仕事の話と別ですけど、若いときにどんな環境で仕事をしたら良かったかなと思うと、御木本はたしかに給料は安かったけれども、クラブ活動というのがありまして。やっぱりなかなか文化的な意思の強い会社でしたからね。
当時7つか8つ・・9クラブですかね、ありまして。ぜんぶ(運営費を)会社で出してくれました。非常に文化的な会社だったことは事実ですね。
美術部、書道部、写真部、コーラス部、囲碁将棋、ワンゲル、野球、卓球……僕らもまだ青春時代ですからね、野球部、卓球部、書道部、コーラス部、ワンゲル部。6つくらいやりました。本当に謳歌していましたね。

美術の講習会。外部から先生を呼んでやりまして、芸大の先生が多かった。宮田宏平先生ですとか、七宝協会の今の会長をやっておられる田中輝和先生ですとか。何人か来てくれました。
いいものをつくっていこうという、共有部分みたいなものがありましたね。そんなことをずいぶんやってきた思い出があります。
一番若いときに自信をもってやっていけるのか、いい指導者がいて、いい環境があって、モチベーションが上がっていける環境があれば一番いいと思いますが、今はこんなご時世で厳しい時代。難しいことばかりです。自分で自分のモチベーションを上げていかなくてはいけない、人に言われたからじゃなくて。そんな時代になっていると思うんですね。

さっき言った試行錯誤の問題ですが、どんな試行錯誤をすればいいのか。
デザインもそうですし、ものをつくっている時もそうですし。僕はデザインがはっきり言って苦手なんですが、いつか自分でデザインしてやろうという気持ちはあった。
テーマを決めてやるんですが、こっち描いたら失敗、またこっちで失敗。ひとつの絵を描くのに1週間くらいかかってしまうこともあるんですね。

つくりの時にも、当時はワックスでやることは少なくて地金でやることが多かったから、きちんとした表現が出来ているだろうか、完成度はどうだろうか、確証はどうだろうかとか考えてやっているもんですから。
ちょっとこのパーツは大きすぎる、でもつくりすぎると気にし過ぎて、今度はこっちが大きくなってしまって、それに凝りて、また作り直すという。
だいたい3回で方向性がはっきりして、これでいいんだなというやり方ですよね、それを一つ一つ自分で把握してやっていくのが重要かなことかと思う。

1000年以上も長い間恥かくつもりか――
細工の時代

話が後先になってしまいますが、「細工」の部署に入った時に、駆け出しでやっている時に、だめだよこんなもん、潰すって何回か潰されたことがありました。金床の上でトンカチでね、潰される。
ちょっと待ってくださいと。潰したら結局どういうふうにしていいか、形がなくなってしまうわけですから。ここへ置いて見ながら次のものをやっていったら、もっと早く習得できるんじゃないかと思いました。
大学行っていたときに化学の実験でやった試行錯誤の方法を踏襲したいというか。やっぱりなるべく早く(技術を)習得しようという気持ちだったから。
潰した先輩には(これはダメだという)確証があったんだと思うんです。だから、「こんなの潰せ」ってね。
でも、先輩たちは一人前の技術があるからいいですが、わたしたちは駆け出しですからね。失敗なら失敗の理由が分かっていかなくちゃいけないわけで。

「細工」には逸品(をつくる)職人で入りました。御木本で最高に権威のある仕事です。
でも、僕は「仕上げ」から何も細工を知らない状態でいきなり入ったので、けっこう背負ってのかもしれない。
入った細工の部署はみんな自分より年下ですが、細工の仕事では先輩なのでね。でも、何でもかんでも謙虚に聞くばかりではなく、どうやったら上手くなれるかということも考えていかないと。
自分の仕事を見つめて、よく観察して。
観察できない仕事もあります。たとえばキャスト、鋳造とかね、中でどんな反応が起きているかは分かりませんけれども、細工とか仕上げはぜんぶ自分の手の中で見られるわけですから。
芸大の宮田宏平先生が「仕事っていうのは、人から盗むのもいいけれども、自分の仕事が教えてくれるんだ」と言っていました。
やっぱり自分の仕事をよーく見ていると、何か違うということが分かってくるのではないかと。
そういう捉え方が自分でが出来るようにならないといけない。そうしたら何とか上手くいくだろうと。
本当は修練した人のほうが余計に感じると思う。ようするに、自分がつくったものに自分が教わっていると考えているんですね。

私たちの時代は「盗め」って言われたんです。でも、もっとモチベーションの高い生き方をすると、自分の中から、見えるという。そういう考え方が必要じゃないかと思うんですね。
宮大工さんからの言葉でね、樹木だって1000年、切ってから200年くらいから強くなる。梁やなんかって1000年ももつ。
ということは、木ですら1000年ももつのに、自分たちがつくっているものは腐らない。そんな1000年以上も長い間恥かくつもりなのかと。潰した先輩からは、そんなこと言われましてね。
やっぱりそれだけに、貴金属を扱っているというのは、そういうことなのだから。貴金属なんていうものは、金なんて、磨いているだけでなんだってきれいに見えちゃうんだよと。
でも、内容ですよね。わたしたちがやらなくてはいけないのは。最初は全然そういうことが分からないでやっていましたが、心してかかってやっていかないとね、自分に対して恥をかくぞと。

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