セミナーレポート 梶原昭雄さん『迷える名工のジュエリー打ち明け話』(前編)

皇后陛下のブローチ、浅丘ルリ子さんのネックレス

何でも売れればいいという時代もありましたけれども、そういう時代にあんまり仕事はしたくなかったですね。
精一杯自分でやった仕事の足跡っていうか、解釈してやっていかないとな、と思ってたよね。
やった結果っていうのは、他人が評価する訳で、ほんとは自分じゃ評価できない。

細工をやり出して3か月くらいして、1級技能検定をとったんですが、そのあといきなり(レベルが)高いものをつくることになって。
会社がそれだけ期待してくれたというのは嬉しかったです。
細工には1年半くらいしかいなかったんですが、皇后陛下のブローチもつくりましたね。
フォーマルなブローチではなくて、両陛下が初めてアメリカに行った帰りに、ハワイで着けてくれたというね、嬉しかったですね。
テレビですけどね、(映ったところを)写真に撮ってあるんです。
社長から(どなたのものか)全然知らされないでやっていまして(後から)じつは皇后陛下のだよって言われまして、構えました。

あとは、浅丘ルリ子さんのネックレスもつくりました。
首のサイズが分からないとつくれませんって言ったら、首周りが28センチですって。そんな(細い)人いませんよね。
まず仮でつくって、アポイントメントが中々とれなかったんですが、スタジオまで行って、会うには会えたんですけど、実際に合うかどうか当ててみなくちゃ分からない。
でも、そんなこと絶対にさせてくれません。おつきの人が代わりにやってくれました。
首の形に独特な曲線がある、ドックネックレスみたいな硬いデザインだったので(サイズが)合わないと使えなくなってしまう。でも、ぴったりだったのは嬉しかったですね。

もっとカジュアルで、世間にはない、うんといいものを

御木本には、いままでのキャリアの3分の1くらいしかいませんでしたが、中身の濃い時代でしたね。技術は駆け出しでしたが、そんな楽しい思いがいっぱいできて。
辞めた理由というのは、なるべく自分が矢面に立って生きていける、恰好いいようなんですが。御木本のものは高級品というような、うちのカミさんたちがやっぱり買えるものではないんですね。
もっとカジュアルで、世間にないうんといいものをつくっていったほうがいいんじゃないかということで辞めたんですけど、また不況になって、食うか食われるかのような時代になってしまって。

でもやっぱり、最初の気持ちというのは変えるわけにいかないので。
御木本で一緒に働いていた仲間と一緒に作った会社が、30年くらいやって潰れたんですが、その時は1年5か月くらい給料もらってませんでした。
それでも好きですからこの仕事、好きだからやっていくということで。好きな仕事だから、多少大変でもしょうがないなと。

ジュエリーづくりはどういうところが好きなのか、と聞かれたら、ひとことで言えば、ものをつくることが好きだった。
単純ですけど、そこに苦しければ苦しいほど自分の感性なりを一生懸命探し出してつくるというような感じですね。

いい時代には頑張ることもできるんですが、苦しい時はもっと自分を振りかざしてつくるんじゃないかなというのがありましたね。
一生懸命つくってもなかなか市場に上がらないというのもありましたけど、貧乏しながらでもやってこれたというのがよかったなと思います。
自分の選択もありましたけれども、やらなくちゃいけないことは、自分のモチベーションの中で決めちゃっているんですね。
これしかないんだという。そこまで来たんだから、ぜったいこれで頑張るんだということしか考えてない。
給料がないときは本当に苦労しましたけれども、でも、やってきたら何とかなったなーという気はします。

今は仕事はあるにはあるんですが、一所懸命やるほどあんまり儲けがないというのが現状ですけれども、やっぱりそれでも、現代の名工、卓越技能賞を受けた時のタイトルで、期待をかけてくれる人が直接頼んできてくれることもあります。
僕に直接ではなくて、業者を通してくるんですが、その時はもう、採算度外視しても何かもう喜んでもらわなくちゃいけないなと。昔気質な職人なんで。
つくったものを喜んでくれる時、笑顔を見た時がもうね、それじゃあ儲からないんですって会社からはいわれるんだけれども。

今、一番感じるのは、宮田先生の「仕事が教えてくれること」と「お客さんにぜったい喜んでもらうんだ」ということ。
特定のお客さんと、不特定のお客さんがいますんで、不特定のお客さんを相手にしながら自分の感性を合わせていくのはなかなか難しいことですが、やっぱりいろいろ長く携わってくると、自分の仕事の中から少しずつでも生まれてくるんだと思いますね。

この間、彫刻家の本を読んでいましたら、「やっぱり人が喜んでくれないといけないんだ」と書いてありましてね。もっと彫刻家は難しいことを考えて生きているんじゃないかなと思ったんでびっくりしたんだけれども。これからも一生懸命やって、喜んでもらえればな、そういう商品をつくっていきたいなと思います。


(後編に続く)

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