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【セミナー採録】 梶原昭雄さん『迷える名工のジュエリー打ち明け話』(後編)

(質問:デザイン画にはなっているけれども、実際にはつくれないということも?)

そういうことも多かったですね。高度な作品だと、仕事を出すほうもどうやってつくったらいいか分からないんですよ。難しすぎて。
それで、こちらでどうにか考えてつくって持っていくと、後出しジャンケンで色んなクレームがきちゃう。
最終的にはホントにいいものをつくるための努力をしているということであればいいんですが、重箱の隅をほじくるようなことになると、ちょっとやってられないと。

昔は僕らが会社にいたころはもっと商品も大らかでした。仕上げ一つのことでピンホールがどうのこうのということをいう時代じゃありませんでしたしね、置かれている人たちもキリキリしてなくて。
今は採算性を高めなくては、差別化とか。
ぼくは差別化ということばは好きではないんですが、何か特長を出して自分が優位に立ちたいというのは分かるのですが、何かクオリティにこれが合っているのかな、そんなことで合っているのかな、と。
顕微鏡で見てみるとか。顕微鏡検品でないと機能的に、あとで壊れちゃうっていうなら分かりますけど、装飾部分をいちいち顕微鏡で見るほどお客さんは(その部分を)見てますかねと。

品位をあげるということは、ものすごくコストがかかるんですね。
あるメーカーの工場長に聞いたことがあるんです。工場長が検品の係に行って「お前たち検品のレベルは上げても下げてもだめだ」と言ったと。
5%検品の基準を上げたとしたら、お前たち3人は首にしなくてはいけないんだと。
コストがそれだけ高くなっちゃう、経済性が悪くなりますから。そんなことをいう人がいるんだなと聞いてびっくりしたんですが。
キビシイことを言っても、そこにいる人たちのモチベーションが上がらないですね。
コントロールタワーに誰かがいないと、誰かの価値観でこれでいいんだという、一体性がないんですね。
でも、世の中どうも全体的にそんな動きがあるようで、まずいなと思っている。


限定版で、形の変わるものとか、下のところがバネになっていて、パチンと開いてパチンと閉じるようになっている。
三角のカムが入っていて。けっこう楽しめたんですね。
ただ、開くための必然性をどうやってデザインしたらいいかと。こういう機能を優先してしまうと、やぱり限界があるんだなと思いました。


僕が好きだったデザイナーのバリエーションのひとつですね。ブローチにも単独のペンダントにもなる。上のパーツはそれだけでも使えます。


真珠のネックレスがそのまま入る、大胆だなあと。これだけでもネックレスとして使える。機能として、ひっくり返っちゃいけないとか色んな制約があるんですけど。

(質問:多機能ものをつくるときの難しさは?)

安心感が持てるように、つなぎの部分の強度とか、フックで留めるとか、それ以上開かないとか、いろいろ考えますね。単独でも、組み合わせても良いデザインになるように、作り手よりデザイナーのほうが苦労しているんじゃないかと思いますよ。


リッチに、色んな石に対応できるようにつくっている。爪を色々アレンジして使いました。

(質問:同じ原型を使うとしても、オパールは1つずつカットが違いますよね。
もし隙間ができてしまったら梶原さんのほうでどうにかしてくれというオーダーだったのでしょうか?)

そうですね。こういうところが、作り手が一番判断しなくてはいけないところだと思います。これもワックス原型でなくて、地金原型で。
僕もワックスは嫌いじゃないんですが、流れのラインとか、必然的に曲がっていてまとまるとかいうラインですと、やっぱり地金でやるほうがホントのものができるような気がして。原型は地金ですね。


炎のような飾りのところ、これは葉っぱで葉脈線が入っているんです。きれいに並行の葉脈線が。この葉脈線の曲げたところは、地金のしゃくれ肉なんですね。
しゃくれ肉の中にタガネで線を入れることもできないし、他の道具でも入れることもまず出来ないんですが、すごくきれいに入っているんです。
こういう曲げ方するのはなかなか難しいと感じる作り手の方は多いと思います。
これは、原型を銀でつくるとき、銀のパイプの内側に溝のグレーバーで模様をつけました。
ロウ付けしないで、パイプを閉じないで開いていって、ねじって、先端を尖らせてこういう形になっている。
見た目のきれいさでいうと真似できない、後加工ではぜったいに出来ない。
見た目は機械的に見えるんですけれども、色々な工夫をしてこういう形につくりました。

 
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