【セミナー採録】第2回セミナー「宝石の品質の見分け方と価値の判断 」
2月20日第二回セミナー
【宝石の品質の見分け方と価値の判断
~宝石を見るための7つの要素~】
講師:原田信之氏 (諏訪貿易株式会社取締役)
宝石は大自然からの預かり物。自然の力が創ったものなので全ての宝石は不完全です。その不完全性が欠点なのか、あるいはそれこそが個性ある美しさなのかを見極めなければなりません。宝石の品質レベルはどうやって見分けたらよいのか、価値はどのように判断したらよいのか。
宝石を見るときの基本事項を、諏訪貿易オリジナルの ブロッシュアー(=パンフレット)やサンプル石をテキストとしてお話いただきました。
ジュエリーコンシェルジュ原田信之ブログ
http://harada.ho-seki.com/
諏訪貿易株式会社 東京都千代田区平河町1-1-8
http://www.suwagem.com/jp/
■ 宝石は大自然からの預かり物。そもそも不完全なもの。
これがブロッシュアーです。
これは諏訪が出している書籍『宝石1,2』のダイジェスト版と思っていただければいいと思います。
「はじめに」の部分を読みますね。
~宝石は大自然からの預かり物です。自然の力が創ったものなので全ての宝石は不完全です。その不完全性が欠点なのか、あるいはそれこそが個性ある美しさなのかをよく見極めなくてはなりません。宝石の価値は「品質レベル」と「産出率と需要」で決まります。産出率は、研磨して美しい宝石に仕上がる原石の採掘の状況です。(後略)~
宝石がなぜ不完全なのか。自然の産物だからです。人間でも完璧な人っていませんよね。
もし、完全な宝石がほしいのであれば、合成石屋さんに行ってもらうしかありません。でも、合成石って個性がないですね。
宝石はこれからお話する7つの要素で見分けます。
【1:種類】
たとえば赤い宝石の場合、ルビーかガーネットかといった宝石種によって価値が変わるのは、ご存じですね。種類によって価値が変わり、合成石はほとんど価値がありません。
ルビーの合成石は100年くらい前に出来ていて、今は研磨代に毛が生えたくらいの価格で求められます。なぜ価値がないのか。合成石は設備を作れば大量生産が可能だからです。最初の設備投資はかかりますが、あとはどんどん安くなる。
よく「ダイヤモンドの合成石って価値はどうなんですか」と聞かれますが、今、合成と天然のダイヤモンドは100%区別がつきます。鑑別が可能である限り合成石と天然石は価値はまったく異なります。合成石は作られるほど安くなると覚えておいてください。
【2:産地】
原石が結晶になった時の環境の違いで、色や内包物に微妙な差が生じます。(サンプルを取り出す)こちらはミャンマー、こちらはタイ産のルビーです、ご覧ください。
違いは、ミャンマーのほうが黒みがある。タイ産のほうが赤い。ミャンマー産は自然光の下で見ると赤く発色します。もう一つの特徴は、タイ産は色が薄くなっても赤いままですが、ミャンマー産は色が薄くなるとピンクになってしまいます。 このように、宝石は産地によって特徴があります。
【3:処理】
宝石の処理については3つに分けられます。「無処理」「処理を必要としない宝石」「処理を加えると宝石になる石」です。
無処理の宝石の代表は「ダイヤモンド」「クリソベリルキャッツアイ」「アレキサンドライト」「ガーネット」「ペリドット」です。
「処理を必要としない宝石」も、非常に稀少ですが、あります。
例えば、ミャンマーの一番古い鉱山で、今も産出している「モゴック産のルビー」。また、「スリランカ産のサファイア」の中にも、加熱をしなくてもきれいなものがあります。環流品では1960年代以前のものは無処理が多いですね。他にも、「ザンビア産のエメラルド」の中には、オイル処理をしなくてもいいものがあります。結晶が固くてグッと締まっているから、亀裂があまり発生しないんですね。
「処理をされて宝石になる素材」の代表例は「アクアマリン」です。
アクアマリンは通常は黄色、グリーン味がかかって産出されるものが非常に多いですが、加熱すると黄色みがとれます。また、「タンザナイト」は、鉱山から出る時は茶色ですが、400度から600度くらいの低温加熱をすると、綺麗な青色に変わります。
さらに、「ルビー」は鉱山から出てきた時は、だいたい青みがかっています。青みが濃いと黒くなる。ルビーやサファイアは、だいたい2000度くらいで溶けますが、融点ギリギリの1800から1900度くらいで熱すると、色が変わって青みや黒みが取れます。
いま、市場に出ているルビーやサファイアの99%がこの高温加熱処理ですが、石が脆くなるという欠点があります。90年代から加工の職人さんが「ルビーやサファイアが欠けやすくなった」と話すのをよく耳にするようになりましたが、これは高温加熱処理が一般的になったためです。
「エメラルド」は非常に亀裂が多く、亀裂の中に液体が閉じ込められていることがあります。研磨すると中の液体が抜けて白っちゃけてくるので、亀裂にオイルを入れて目立たなくする。これがエメラルドの処理で、クレオパトラの時代にはもうオイルに漬けられていたというくらい歴史が古いです。かつては「シダーオイル」という杉のオイルにぽちょんと漬けることが多かったのですが、今では亀裂にエポキシ樹脂を入れることが多い。でも、樹脂は何年か経つと変質します。宝石としての美しさが、買った時と変わってしまう。そう考えると非常に甚だしい処理ですね。
ほかにエメラルドの処理には「パラフィン」を使うこともあります。イスラエルでよくやります。非常に表面がてかてかして照りがよくなります。ドイツのオーバーシュタインという研磨地では、伝統的に鯨油を煮立ててそこに入れて出す処理をよくやります。とくにカボションカットのエメラルドに多いですね。
「ブルートパーズ」は放射線処理した宝石の代表です。カラーレスの元々あまり価値のないトパーズに、放射線で自由に色をつけます。
他には、「表面拡散処理」という処理もあります。宝石の表面を化学的に反応させて色をつけるんですね。「パパラチアサファイア」の表面拡散処理のニュースが記憶に新しいと思いますが、中まで反応させて色を変えていると、なかなか鑑別が容易ではありません。
でも、処理した宝石と無処理の宝石は、自分の眼で見比べるとよく分かりますよ。無処理のものは透明度が高くて優しい、加熱の石は毒々しい。今日はサンプルがありますから、ご自分の目でよく見比べてください。
【4:美しさ】
ファセットカットの宝石の美しさは「モザイク模様」で判断します。ものすごく綺麗なモゴック産ルビーの写真がブロッシュアーの9ページにあるので、見てください。
炎のような赤。でもよく見るとモザイクの中には赤、黒、ピンクっぽいところもあったり、白っぽいところもある。人間の目はこのモザイクを捉えて美しいと見ます。ファセットカットの宝石の美しさの基準は、このモザイク模様のバランスです。
【5:濃淡】
宝石の濃淡は国や民族の習慣によって、もっとも好まれる色に違いがあります。スリランカ産サファイアのクオリティスケールを見てください。
淡い青から濃い青まで並んでいますが、業界の方に「どこの色が好きですか」と聞くと、たいてい同じあたりの石を指します。これは元々決まっていたことではなく、伝統です。「サファイアはこの色が美しい」と皆さんが感じて、受け継がれている。
宝石は発見されると流行が起こります。流行が起きて、身につける習慣ができて、伝統になります。それが宝石の「格」になります。
タンザナイトはすごく新しい宝石で、まだ流行の段階です。伝統がありませんから、オークションでは高い値段では取引されません。ルビーやサファイアは、長い伝統の中から価値付けがされています。
【6:欠点】
宝石を見る時にルーペをすぐ当てる人は私は信用しません。美しさは肉眼で見るものです。
じゃあルーペで何するのか。宝石は不完全なものですから、欠点か特徴がある。プロの仕事は、欠点なのか特徴なのかを見極めること。そのためにルーペを使います。
たとえば、亀裂が入ったダイヤモンド。仕立てた時、爪のかかる位置に亀裂があったら、壊れる可能性があります。この亀裂は「特徴」ではなくて「欠点」となります。ダイヤモンドの「SI」というグレードのものは、中に黒いインクルージョンが入っていることがけっこうあります。これはやはり欠点ですが、インクルージョンでも白いフェザーやクリスタルとなると、欠点ではなくて「特徴」です。
【7:サイズ】
大きさは宝石の品質の中でも、かなり重要な位置を占めます。
宝石の世界では、「小粒でも、山椒でもぴりりと辛い」ということはあまりなくて、やっぱり大きいものは綺麗です。
でも、大きければ何でも綺麗かというと、そうではありません。
たとえばラウンドブリリアントカットのダイヤモンド。15キャラットの大きさになると、綺麗かというとちょっと間が抜けた感じの宝石になります。モザイク模様が大きくなりすぎて、バランスが良くないんですね。
逆に、小さいダイヤのラウンドブリリアントカットは、モザイク模様が小さくなりすぎて人間の目で捉えられなくなる。宝石なら何でも58面がいいわけではありません。
■ ラウンドブリリアントカットよりもシングルカットのほうが輝きが強い?
(サンプル見せる)こちらのメレーはブリリアントカットの2.7㎜から1.1㎜まで、まったく同じ品質を並べたものです。パッと見ただけでも2.7㎜のほうが輝いていますね。大粒なほうがやっぱり輝いています。では、こちらと、Bのセットでは、どちらが輝いていますか?(サンプル見せる)。これ、すぐ分かりますね。Bです。Bは17面体のシングルカットです。
なぜこういうことが起きるのか。
直径が1.5ミリ未満のダイヤは58面にするには小さすぎです。シングルカットのほうが完全に綺麗です。
その良さをよく分かっているのが、有名なスイスの時計の会社ですね。その会社の時計の文字盤に入っているダイヤモンドは、シングルカットで1.1㎜のものが多い。ベゼルにつけるダイヤモンドは比較的大きなものを使うことが多いので、58面体です。
けっしてコストカットのためにシングルカットを使うのではないですよ。シングルカットはブリリアントカットする途中の工程ですが、カット研磨工の立場からすると、ブリリアントカットのほうが誤魔化しがきく。面が多いと合わせ目が少しずれても誤魔化せますが、面が少ないとずれたところがハッキリ分かってしまう。研磨所でシングルカットは一番上手な研磨工を集めてラインを作ります。
ただし、コストダウンのためのシングルカットもあります。ものすごく安いですが、素材も研磨の技術も違いますから美しくはありません。
では、0.2や0.5カラットの小さいのサイズのダイヤはどう使うか。3個か5個か7個かでまとめて連鎖の美しさを作ります。ヨーロッパで高額宝石を扱っている人は、この大きさも全部メレーと呼びますね。「メレーにグレーディングレポートをつけて売るな、これはメインストーンの周りを飾る石だよ」と以前さんざん怒られたことがあります(笑)。
ダイヤモンドの色の見え方について、一つ言いましょう。こちらがラウンドブリリアントカット、こちらはマーキースです(両方のクオリティスケールを見せる)。
同じクオリティの石を比べると、ラウンドブリリアントカットよりもマーキースのほうが黄色みを強く感じますね。ファンシーシェイプカットの宝石は、少し色味が入っただけでも人間の目には強く感じます。だから、カラーレスの宝石の中でもいいところを使わないと、美しさが感じられません。
■ 伝説の宝石、ピジョンブラッドのルビーとカシミールサファイア
「ピジョンブラッドのルビーって何ですか」とよくご質問を受けますが、われわれは次のように定義しています。
- ビルマのモゴック鉱山産
- 無処理で透明度が高いこと
- 濃い赤であること
- メインストンサイズの、3カラット以上の大粒であること
これらを満たしたルビーのみを「ピジョンブラッド」と呼びます。本当に美しいです。濃いめの赤色で、内側かめらめらと炎のような赤色がわき上がってきます。
「カシミールサファイア」。これは1900年にはもう枯渇していたと言われる、インドパキスタンの鉱山の5000メートルの高地から掘ったサファイアです。1900年から1920年くらいのアンティークによく使われていて、今はもうほぼ環流品でしか出ません。カシミールサファイアの特徴は、「矢車草の青」と言われ、「コーンフラワーブルー」という表現をします。
インターネットなどでよく「このサファイアの色はコーンフラワーブルーで」などと書かれているのを見かけますが、本来はカシミール産サファイアにしか使わない言葉です。優しくて、発色が良くて、すごくいい色ですね。
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【Q&A】
質問「サンプルで回していただいただエメラルドがエメラルドカットではなくてステップカットでしたが、なぜでしょう」
原田「これは私がザンビアで買った原石を使いました。ザンビアは無処理のエメラルドはあまり無くて、鉱山ですぐに原石がオイルに漬けられてしまいます。鉱山から出て来たところでは全体が白っちゃけて内部が見えないからオイルや水につけて品質を判断します。
このサンプルは、買い付けた原石をオイルを取るために洗って亀裂の位置を確認して、亀裂が無くなるまでカットした後、大きなところはメインストーン用にエメラルドカットにして、残りの小さいサイズは集めてチャネルセット等に使うためバゲットカットにしました。ご覧になった方の中で始めてそういう質問をいただきました。非常に鋭い、ありがとうございます」
質問「この間、業者からルビーの4キャラで5、6万円のものが回ってきました。透明度はないけど色はいい。大丈夫なのって聞いたら熱処理はしているけど大丈夫、アフリカのものですって言われたんですけど大丈夫なんでしょうか」
原田「アフリカは宝石の宝庫です。東海岸はブラジルと大昔は大陸が一続きになっていたと言われ、ブラジルで出る宝石はアフリカの東海岸でもだいたい出て来ます。
アフリカは内戦が多いですから、内戦中は宝石が出てきません。治まるといっぱい出てきます。アフリカから来るアクアマリンはすごく綺麗ですよね。
ルビーはタンザニアなどでたくさん出ますが、彫り物に使う素材が多い。値段が安いものだから、私のところにも査定でいっぱい回ってきます。中には10カラットサイズのルビーでカッティングがすごく綺麗なものがありますが、これらは100%近く、ガラスが亀裂に充填されています。
安いものには何か理由がありますから気を付けてください。鑑別に出したら分かりますし、慣れてくると自分の目でも分かりますよ。強い光に当ててルーペでご覧になると干渉色、少し虹色がかった青白い色が、亀裂の箇所から出ているのが見えます。これはほとんどはガラス充填です」
質問「ダイヤモンドの原石を見てみたくなりました。どこで見られますか?あと、宝石でのデザイン傾向はいまどんなのがありますか」
原田「タイムリーですね(笑)。これは会長の諏訪が共著で出したダイヤモンドの原石の本です。ダイヤモンドの原石を諏訪が買い求めて、研磨して装身具に仕立てるまでを本にまとめました。原石のすごく綺麗な写真がたくさん載っていますよ。写真家の中村淳さんが、2メートルくらいあるジャバラのバズーカ砲のようなカメラを使って、時には1個を1日かけて撮影しています。
それから、デザインの流行について。ジュエリーには流行ものと伝統ものの2つあります。流行ものはそのときによって変わります。流行は、流行を作られている方たちの専門であって、私は専門外です。
われわれは装身具を3つに分けています。
まず『ジュエリー』、フランス語で言うと『ジュワイヨ』ですね。宝石を主体とした装身具です。こちらは私がプロデュースしたリングです(リングを見せる)。地金が見えず、石しか見えない。こういうジュエリーは流行があまり感じられません。100年経っても100年前のものもあまり変わらない。諏訪で扱う装身具はこうした『受け継がれるジュエリー』です。
次に、貴金属を主体とした装身具。これはフランス語では『ビジュテリ』といいます。英語で言うと全部『ジュエリー』なんですけど、フランス人はわざわざ分けていますね。こちらは流行を作るためのもの、地金で形作られるもので、得意とするブランドはカルティエやブルガリです。
もう一つは「アクセサリー」です。
装身具はこのように、「ジュエリー」―受け継がれるもの。「貴金属」―流行が終わると溶かされもの。「アクセサリー」―いずれ捨てられるもので分かれます。流行の装身具は流行を生む方が作る一つのカテゴリーですね。ジュエリーとはまったく違うものと受け止めていただければと思います」
質問「宝石は鉱物ですから、すごくしっかりとした基準の中で価値や値段が動いているものと思っていましたら、『優しさ』『美しさ』など、人間的な目で見ていいと聞きまして、今日は安心しました」
原田「そうです。よく、『宝石は透明度の高いものを選んでください』という言い方をしますが、コロンビアのエメラルドもルビーも、透明度はじつは思ったほど高くない。ほんの少し濁っているんですね。本当に透明度が高いものでいえば、合成石になります。一番いい宝石がけっして透明度が一番高いものではないというのが、宝石のほっとするところです。やっぱり自然が作ったものですから」
質問「工房をやっています。宝石をセットするときはいかに光を入れるかを考えてセットするべきだなと、今日はいろいろな宝石を見て感じました」
原田「おっしゃる通りです。20世紀の偉大なジュエラーはハリー・ウィンストンじゃないかと弊社の諏訪が申しています。私もそう思います。ワイヤーセッティング、光をものすごくたくさんいれるセッティングは昔からありましたけど、あそこまで確立したのはすごいんじゃないかなと。フランスのパヴェも後ろからも光を入れてすごく綺麗です。後ろを覆ってしまって光を入れないのは、宝石に失礼ですよね。まったく同感です」
質問「今日、宝石を見比べると良さが分かりましたが、一つだけ見た時に良さを判断するのは、まだ私にはできないな、これから勉強しなくてはと思いました」
原田「ご安心ください。わたしはバイヤーですが、バイヤーはパッと一個見せられて、これがいくらか、どのくらい美しいか分かるかと思っていらっしゃいませんか?
じつはそんなバイヤーはたいした品質を買い付けるバイヤーではありません。買い付けの時、私はサンプル石を持っていきます。一個で何千万という石を買うときに、目の前の石だけを見て決めません。
というのは、光源によって宝石は見え方が変わるからです。サンプル石がその光源の下でどういうふうに見えるのか、それと目の前の石を見比べながら査定します。黙って座ればピタリと当たるバイヤーなんていません。宝石は比較が基本です。」
質問「原田さんはお好きな石がありますか」
原田「それを聞かれるととても困ります。でも、カシミールサファイアが好きだという者が諏訪の社員には多いですね。
私は買い付けで楽しいのはアメシストです。アメシストはサイズによってあまり価格差が無い宝石なので、現地ではどのロットも同じくらいの値段で売られている。
でも、アメシストの本当に綺麗なのは、何百個に1個くらいしかないですが、本当に綺麗なんです。いくら選っても大差ない値段となると、ムキになって美しいのを探し出してしまいます。自分の腕試しができるようで、非常に楽しいです」
質問「わたしは修理をやっているので、宝石は美しいかよりも、割れやすいか割れにくいかで見てしまうことが多いんです」
原田「大事ですよね、割れにくさの観点で宝石を見るのって。
古いダイヤモンドジュエリーでガードルが欠けているものがよくありますが、これはガードルが薄いせいです。GIAの減点主義でいくと、厚いよりも薄いほうが減点が少ない。でも、ガードルというのは宝石をガードする役目なので、ある程度は幅がないといけないと私は思います。ジュエリーは世代を超えていくものですからね」
質問「日本の宝飾業界は非常に縮小しています。ハイジュエリーのランクはいかがでしょうか」
原田「マーケット全体はたしかに落ちていると思います。マーケットを3つに分けると、ハイジュエリーのところは今、海外ブランドの輸入品が多くを占めて、国内で作っているものは非常に少なくなっている。これはハッキリいえます。下の安いマーケットも輸入品ですね。
上と下は輸入品で、真ん中の部分だけを日本で作っているのが現状ですが、今は真ん中の部分に需要がない。これが日本の宝飾業界の大きな問題です。
ただ、上の部分はこれから日本勢の盛り返しがあると思います。消費者の目が非常に開いてきて、海外ブランドのものも大したことないじゃないって言われ初めている。雑誌関係の方はよく言いますね。消費者が成熟してきているのはちょっと感じています」
質問「宝石がますます好きになりました。ただ宝石のビジネスとしての嫌な面、キャラ目を増やすためにビーズの穴を細くして切れやすいものにするとか、本当はファンシーシェイプのほうがいい石もラウンドにして流通させるとかあると思います。こうした側面はどうお考えですか」
原田「宝石にはそれぞれに、ファンシーカットがありますね。ファンシーカットが一つだと思っていたら大間違いで、たとえばダイヤモンドはラウンドが基本で、ラウンド以外をファンシーシェイプ、オーバルやマーキス等はファンシーシェイプになります。エメラルドはエメラルドカットが主体で、それ以外をファンシーシェイプ。ルビーやサファイアはオーバルが基本で、オーバル以外をファンシーシェイプといいます。
なぜダイヤモンドはラウンド、エメラルドはエメラルドカット、ルビーやサファイアはオーバルが基本なのかというと、原石の形の関係です。原石を活かして取れるカットのメインのもの以外をファンシーといいます。
いま、ダイヤモンドはラウンド至上主義になっていて、以前は10キャラット以上のラウンドはあまり見られませんでしたが、今は人気があるものですから作ります。これは私は非常に嘆かわしいと思っています。ラウンドブリリアントカットが輝くためには決まったデップスを要します。テーブルに対して60%のデップスがないと綺麗に輝かない。50%のデップスになると全然綺麗じゃない。
装身具という点から見ますと、厚い石はダメです。ごろごろして綺麗に仕上がらない。10キャラット以上のラウンドの宝石となるとゴロゴロして座りのよくないジュエリーになってしまいますが、今はラウンドが人気があるものですから、けっこう市場に出回っています。
ファンシーシェイプですと、オーバルやペアシェイプなどは薄くても素材が良ければけっこう綺麗な石が多くいんです。仕立てた時に綺麗に仕上がる。ダイヤモンドに限らず、われわれが目指して買うものは薄くて綺麗な石です。私はファンシーシェイプが大好きです。答えになっていますでしょうか(笑)」
質問「石屋にいます。インドから何千カラットとルビーがドバッと入ってきますが、合成、ルベライトなども混ざっているし、最近はソートし終わった後に鑑別に出すと含浸がとても多く出てきます」
原田「私たちは処理石を買わない自信があるんです。なぜか。業者を選ぶから。それだけです。
宝石で肝心なのは、幾らで買うではなくて誰から買うかです。これは諏訪貿易では先代から言われていることで、結局は信頼の連鎖なんですね。原石に辿れるところから買っていれば、どんなトラブルも生じない。
たぶんそちらは、ジャイプールのマーケットでブローカーが集めてきたものを買っていらっしゃると思いますが、そうなるともう原石がたどれませんから、鑑別をしてもらうしかないですね。宝石で一番肝心なのは誰から買うかです」
(お話:原田信之氏 <諏訪貿易株式会社取締役>)